また新しいスキルを学んでいますか? 流行りのプログラミング言語、それとも最新のマーケティング理論でしょうか。その向上心は、本当に素晴らしいものだと私は思います。
ですが、一度だけ、胸に手を当てて正直に考えてみてほしいのです。その長くなる一方のスキルリストを眺めて、あなたの心は本当に満たされていますか? 「これだけ学んでも、まだ何者にもなれていない」という漠然とした不安が、夜中に胸を締め付けることはありませんか?
もし、少しでも心当たりがあるなら、この記事はあなたのために書きました。
断言しますが、目的もなくスキルをコレクションする行為は、今すぐやめるべきです。あれは、あなたのような真面目な人間を、終わりのない不安の迷路に誘い込む危険な罠に過ぎません。
この記事でお伝えしたいのは、揺るぎない市場価値を築くための明確な道筋です。あなたを縛り付けている「スキル」という呪いから解放され、明日から何をすべきかが、心の底から明確になっているはずです。
そもそも市場価値とは何か?巷の定義とその「罠」
まず、巷で言われている「市場価値」の定義から確認しておきましょう。多くの転職サイトやビジネス書には、こう書かれています。
市場価値 = スキル + 経験 + 実績
これは、間違いではありません。分かりやすい数式ですし、キャリアを考える上での一つの指標にはなるでしょう。
しかし、私はこう考えます。この数式だけを信じていると、あなたはいつまで経ってもその他大勢から抜け出すことはできません。なぜなら、この考え方には、個性のない人材、いわゆる「金太郎飴」を量産してしまう、恐ろしい「罠」が潜んでいるからです。
多くの人が、この数式を鵜呑みにして、「とにかくスキルを増やそう」「経験年数を積もう」「何か実績を作ろう」と、無目的にパーツを集めることに終始してしまいます。その結果、何が起きると思いますか?
なぜ「スキルの掛け算」だけでは危険なのか?
「マーケティング × 英語 × プログラミング」——
一昔前は、これだけで「希少な人材」ともてはやされたかもしれません。ですが、今はどうでしょう。そんなスキルセットを持った人材は、正直、掃いて捨てるほどいます。
あなたが「レアな組み合わせだ」と信じて目指しているそのゴールは、残念ながら、他の誰もが同じことを考えているレッドオーシャンなのです。
その先にあるのは、スキルの陳腐化地獄です。
誰もが同じようなスキルを目指し、同じようなポートフォリオを作る。そこにあるのは、どこにでもいる「器用な便利屋」の大量生産でしかありません。私がこれまで何百人という経営者や採用責任者を見てきましたが、スキルリストの長さごときで心を動かされることなど、もはや皆無です。
そして、何より厳しい真実を伝えなければなりません。「スキルの掛け算」だけで得られる仕事は、所詮「そのスキルセットを持った誰か」で代替可能な仕事でしかありません。それは、絶対に「あなた」でなければならない理由にはならないのです。
本質的な市場価値の源泉:あなただけの「指名される理由」
では、本質的な市場価値の正体とは、一体何なのでしょうか。
それは、あなたのスキルリストの長さではありません。持っている資格の数でもありません。私が思うに、それは、たった一つの問いに対する、あなただけの「答え」の鋭さです。
「誰の、どんな深い課題を、あなただからこそ解決できるのか」
これこそが、あなたが指名される理由、つまり市場価値の源泉なのです。
考えてみてください。あなたが本当に困っている時、助けを求めたいのは「色々なことができます」という器用な便利屋ですか? それとも「あなたのその悩み、私以上に解決できる人間はいない」と断言してくれる、一人の専門家ですか? 答えは明白でしょう。
価値とは、常に相手との関係性の中に生まれます。あなたがどれだけ優れたスキルを持っていても、それを求める「誰か」がいなければ、その価値はゼロです。だからこそ、問うべきは「何を学んだか」ではなく、「自分は、誰のために存在するのか」なのです。
スキルとは、その目的を達成するための「弾丸」に過ぎません。どんなに高性能な弾丸を持っていても、撃ち抜くべき「的」が定まっていなければ、ただの鉄の塊です。
「指名される理由」を構築する5つの戦略的ステップ
「じゃあ、具体的にどうすればいいんだ」という声が聞こえてきそうですね。もちろん、抽象的な精神論で終わらせるつもりはありません。私が数々の現場で見てきた、「指名される人」に共通する思考と行動を、明日から実践できる5つのステップに落とし込みました。
Step 1: 原体験と「異常性」を棚卸しする
まずやるべきは、スキルの棚卸しではありません。あなたの「異常性」の棚卸しです。これは、一般的な「キャリアの棚卸し」とは少し違います。
- なぜか分からないが、昔からこれだけはこだわり続けてしまうこと
- 他人から見れば非効率でも、どうしても譲れない仕事の進め方
- 周りから「変だ」と言われても、心の底から「正しい」と信じていること
これらが、あなたの価値の源泉です。多くの人は、この「異常性」を矯正し、平均的なビジネスパーソンになろうと努力しますが、全くの逆です。その歪み、偏り、ある種の狂気こそを磨き上げるべきなのです。それが、他人には絶対に真似できない、あなただけの武器になります。
Step 2: 「誰の、どんな痛みか」を定義する
次に、その異常なまでのこだわりを、誰のために使いたいのかを考え抜きます。広く浅く「社会貢献」などと考えてはいけません。もっと具体的に、生々しく想像するのです。
- 予算がなくて困っている中小企業の、あの気弱な社長のためか?
- 古い体質に苦しむ現場の、あの若手社員のためか?
- 自分の作った製品で、一体どんな人のどんな一日を最高なものにしたいのか?
この「誰か」の顔が具体的に思い浮かぶまで、徹底的に考え抜いてください。そして、その人が抱える「痛み」を、自分の痛みとして感じられるまで想像を巡らせるのです。たった一つの「的」を、ここで定めるのです。
Step 3: 課題解決の「武器」を戦略的に獲得する
「誰」と「痛み」が定まって初めて、あなたは学ぶべきスキルが何であるかを知ります。もはや、流行りのスキルを追いかける必要はありません。Step 2で定めた、たった一つの課題を解決するために必要な弾丸(スキル)を、最短距離で手に入れにいけばいいのです。
それは、誰も見向きもしないような古い技術かもしれませんし、泥臭い交渉術かもしれません。それでいいのです。
ここで獲得すべきは、専門スキルだけではありません。問題解決能力やコミュニケーション能力といった、いわゆる「ポータブルスキル」も重要です。要は、どこに行っても通用する個人の戦闘力ですね。
ただし、その選択基準は常に「定義した課題を解決するために必要か否か」という一点に絞り込んでください。
Step 4: 経験を積み、再現性のある「実績」に変える
「的」を定め、「弾丸」を手に入れたら、次はいよいよ実戦です。ただ会社に在籍しているだけの時間を、私は「経験」とは呼べないと考えます。
本当の経験とは、定義した課題を解決するために、意図を持って試行錯誤した軌跡そのものです。
そのプロセスの中で、あなたは必ず失敗するでしょう。しかし、その失敗から学び、アプローチを洗練させていくことで、やがてそれは誰にも真似できない「実績」へと昇華します。その実績には、「あなただからこそ、この問題を解決できた」という再現性が宿っているはずです。
Step 5: 実績を「数値化」し、物語として語れるようにする
最後に、その実績を客観的な事実として証明する必要があります。ここで初めて「数値化」が意味を持ちます。「売上を20%向上させた」「コストを30%削減した」といった具体的な数字は、あなたの価値を他者に伝えるための、極めて強力な言語です。
しかし、単なる数字の羅列で終わらせてはいけません。その客観的なデータを、あなただけの「物語」に結びつけるのです。
「私は(Step 1の異常性)という哲学に基づき、
(Step 2の特定の誰か)が抱える(痛み)を解決するために、
(Step 3の武器)を使い、
(Step 4の経験)を経て、結果として
(Step 5の数値化された実績)を出すことができました」
この一連のストーリーこそが、あなたの市場価値の正体であり、あなたが「指名される理由」の証明なのです。
私がかつてコンサルティングにて改善支援を手がけた、ある資材メーカーの話をしましょう。業績不振の営業部には、あらゆる営業フレームワークを学び、プレゼンスキルも高い、いわゆる「優等生」が揃っていました。しかし、彼らの殆どが、毎年目標を立てているのにも関わらずある条件の顧客との取引まで漕ぎつけられない。
つまり会社が求める最重要顧客の心を動かせていなかったのです。
そこに、スキルなど何もない一人の若者がいました。彼にあったのは、ただ「この製品を愛している」という狂気じみた情熱(Step 1: 異常性)だけでした。彼は、その最重要顧客の担当者が「心から信頼できるパートナーを探している」という痛み(Step 2: 誰の痛みか)を誰よりも深く理解していました。
彼が使った武器は、綺麗な資料ではなく、相手の懐に飛び込み、人間として信頼を勝ち取るという泥臭い人間力(Step 3: 武器)でした。何度も門前払いされながらも、彼は諦めずに通い続け、製品への愛と顧客への誠意を伝え続けたのです(Step 4: 経験)。
その結果、彼は見事に契約を再開させ、会社のV字回復の最大の立役者となりました(Step 5: 実績と物語)。彼の市場価値は、スキルリストでは決して測れません。彼は、あの顧客から「あなたでなければダメだ」と指名されたのです。
本当の意味で「市場価値の高い人間」
市場価値の正体とは、あなたという人間の「物語」そのものです。どんな哲学を持ち、誰のどんな痛みに寄り添い、それを解決するためにどんな狂気的な努力をしてきたか。人々がお金を払い、あなたを指名する理由は、そこにしかありません。
もう、他人が作った価値基準に自分を当てはめるのはやめにしましょう。スキルの掛け算という幻想から、目を覚ます時です。
この記事で示した5つのステップは、あなただけの物語を紡ぐための羅針盤です。あなたの価値とは、戦略的に選ばれたスキル、目的にフォーカスした経験、そして数値化された実績によって証明される、唯一無二の物語なのです。
明日からあなたがやるべきことは、ただ一つ。自分の履歴書やスキルリストを眺める時間を、自分が心の底から解決したいと思える「たった一つの課題」と向き合う時間に変えることです。
それは苦しい道かもしれません。誰からも理解されない孤独な戦いになるかもしれない。ですが、その道の先にこそ、本当の意味で「市場価値の高い人間」として生きる、誇りに満ちた未来が待っています。