「最近の若手は指示待ちで、自主性がない」
「職場の雰囲気がギスギスしていて、活気がない」
「せっかく育てた社員が、すぐに辞めてしまう」
もしあなたが経営者や管理職として、このような悩みを抱えているのなら、少しだけ耳の痛い話にお付き合いください。その問題、社員の能力や意欲のせいではなく、あなたのリーダーシップの在り方そのものに原因があるのかもしれません。
多くの組織で、いまだに「リーダーシップとは、部下を力で動かすことだ」という古い考え方が根強く残っています。私たちは、これを「パワー型リーダーシップ」と呼んでいます。しかし、この手法が現代において限界を迎えているのは、多くの現場が証明しています。
この記事では、「パワー型リーダーシップ」の弊害と、これからの時代に求められる新しいリーダーシップの形について、具体的にお話しします。少し辛口に聞こえるかもしれませんが、あなたの会社を本気で良くするための提言です。
なぜ「パワーで押さえつける」リーダーシップは、もはや通用しないのか
かつて、強いリーダーが組織をぐいぐい引っ張っていく「パワー型リーダーシップ」は、有効な場面もありました。しかし、時代は変わりました。この古いやり方に固執することは、組織にとって深刻な「コスト」を生み出します。
1. 「指示待ち人間」を量産し、組織の成長を止める
リーダーが常に正しく、部下はそれに従うべきだという姿勢は、社員から「考える力」を奪います。失敗を恐れるあまり、誰も新しい挑戦をしなくなり、言われたことだけをこなす「指示待ち人間」ばかりの組織になってしまうのです。これでは、変化の激しい時代に対応できるはずもありません。
2. 社員の心を疲弊させ、離職率を高める
高圧的な態度、一方的な指示、人格の否定。このようなリーダーの下で、誰が「この会社のために頑張ろう」と思うでしょうか。社員は精神的に疲弊し、心身の健康を損なうことさえあります。昨今、多くの企業で問題となっているバーンアウト(燃え尽き症候群)やハラスメントは、まさにこの「パワー型リーダーシップ」が生み出す闇と言えるでしょう。結果として、優秀な人材は静かに会社を去っていきます。
3. 経営者が「孤独」になる
力で支配しようとすればするほど、部下は本音を話さなくなります。リーダーの耳に届くのは、当たり障りのない報告ばかり。現場で起きている本当の問題点が見えなくなり、経営者は裸の王様になってしまいます。これは、組織にとって致命的なリスクです。
もし、あなたの会社がこのような状況に少しでも当てはまるなら、それは社員ではなく、リーダーシップの仕組み自体を見直すべきサインです。
パワーから「支援」へ。組織を覚醒させる新しいリーダーシップ
では、どうすれば良いのか。私たちは、パワーで「支配する」のではなく、社員一人ひとりの力を引き出し、組織全体を動かしていく「支援型リーダーシップ」への転換を提唱します。
これは、部下の上に立つのではなく、横に立ち、時には後ろから背中を押す「伴走者」としてのリーダー像です。このリーダーシップは、以下の3つの要素を同時に実現することを目指します。
- 善を為し、物事をより良くする(理念の共有)
- 人を気遣い、成長を助ける(人間への投資)
- チームを動かし、問題を解決する(行動の推進)
これらは決して、きれいごとではありません。社員が自律的に動き、会社が持続的に成長していくための、極めて現実的な戦略なのです。次章から、この3つの柱を具体的にどう実践していくのかを解説します。
「支援型リーダーシップ」を実践する3つの柱
「支援型リーダーシップ(サーバント・リーダーシップ)」は、精神論ではありません。リーダーが意識的に取り組むべき、具体的な行動の積み重ねです。ここでは、その核となる「理念」「人間」「行動」の3つの柱について掘り下げていきます。
第1の柱:理念の浸透 ― 「なぜやるのか」を腹落ちさせる
リーダーの最も重要な仕事は、組織の「道徳的な軸」を打ち立て、示すことです。これは「会社の儲け」という話ではありません。「我々の仕事は、社会や顧客にとって、どのような良い影響をもたらすのか」という、仕事の存在意義そのものです。
- 「組織の闇」を払い、「光」を当てる 不正、隠蔽、社内政治、足の引っ張り合い――。こうした「組織の闇」は、社員のやる気を削ぎ、正しい判断を曇らせます。リーダーは、正直者が馬鹿を見ない、公正で透明性の高い環境を作ることに全力を注がねばなりません。親切、敬意、感謝、誠実さといった「組織の光」となる価値観をリーダー自らが体現し、奨励することで、風通しの良い職場が生まれます。
- キラキラした言葉ではなく、日々の行動で示す 立派な理念を額縁に飾るだけでは、何の意味もありません。重要なのは、日々の業務における一つひとつの判断が、その理念に基づいているかどうかです。例えば、「お客様第一」を掲げるなら、リーダーは短期的な利益のために顧客を裏切るような決定を決して下してはならないのです。
第2の柱:人間(ひと)への投資 ― 社員をコストではなく「資産」と見なす
成長する組織は、例外なく「人」を大切にしています。社員を単なる労働力やコストとしてではなく、価値を生み出す源泉である「資産」として捉え、その成長に本気で向き合う。これが支援型リーダーシップの心臓部です。
具体的には、以下の4つの要素を意識して、社員一人ひとりと向き合うことが求められます。
- 愛情: 社員を一人の人間として尊重し、そのキャリアや人生に関心を持つこと。定期的な1on1ミーティングなどを通じて、彼らが何に悩み、何を望んでいるのか、真摯に耳を傾ける姿勢が信頼関係を築きます。
- 鼓舞: 仕事の意義や会社の目指す未来を熱く語り、社員一人ひとりの可能性を信じていると伝えること。「君ならできる」という期待が、人の持つ力を最大限に引き出します。
- 活力: 社員が心身ともに健康で、エネルギーに満ちた状態で働ける環境を整えること。無駄な長時間労働をなくし、休息を奨励することもリーダーの重要な役割です。
- 表現: 社員の意見やアイデアに価値があることを認め、自由に発言できる場を作ること。そして、挑戦する機会を与え、たとえ失敗しても、その経験から学ぶことを奨励する文化を育むことが不可欠です。
第3の柱:行動(アクション)の推進 ― 理念と想いを「成果」に繋げる
理念を共有し、社員の心を動かしたとしても、それが具体的な行動と成果に結びつかなければ意味がありません。リーダーは、チームをまとめ、困難な課題を解決に導く「実行力」も同時に問われます。
この「行動の推進」は、以下のシンプルなプロセスで成り立っています。
- 現状の把握: 目の前にある問題や機会を、先入観なく冷静に分析します。現場の社員から直接情報を集め、課題の全体像と本質を見極めることが第一歩です。
- 目標の設定: 「どこを目指すのか」という、明確で魅力的なゴールを描きます。この目標は、先に述べた「理念」と一貫している必要があります。
- 計画と実行: 目標達成までの具体的な道筋を立て、役割分担を明確にし、チームを巻き込んで実行に移します。リーダーは進捗を管理し、問題が起これば即座に介入して解決を支援します。
この3つの柱、「理念」「人間」「行動」は、どれか一つが欠けても機能しません。「理念」と「人間」への想いだけではただの仲良しクラブで終わってしまい、「行動」だけを重視すれば、結局は従来の「パワー型リーダーシップ」に逆戻りしてしまうからです。3つが一体となって初めて、組織は力強く前進し始めるのです。
結論:リーダーシップとは「偉業」ではなく「日々の仕事」である
「支援型リーダーシップ」への転換は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。長年染み付いた思考や行動の癖を変えるには、リーダー自身の強い覚悟と、粘り強い努力が求められます。
しかし、その先には大きな見返りが待っています。 社員が自らの意思で考え、動き、互いに協力し合う。そんな活気ある組織を想像してみてください。リーダーであるあなたの仕事は、部下を監視し、尻を叩くことではなく、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整え、未来への舵取りに集中することに変わるはずです。
この変革は、何か特別な研修を受けたり、高尚な理論を学んだりすることから始まるのではありません。
まずは、明日からのミーティングで、部下の話に最後まで耳を傾けることから。 まずは、部下の小さな成功を、心から褒めてみせることから。
その小さな一歩が、あなたと、あなたの組織を大きく変える原動力となるのです。それは決して楽な道ではありませんが、挑戦する価値のある、リーダーにとって最もやりがいのある「仕事」だと言えるでしょう。